《霊枢・経脈》

「経脈者,所以能决生死,処百病,調虚実,不可不通。」
(経脈は生死を決し、百病を処す、虚実を調整、通じるべきである。)

book中国医学の古典である『霊枢・経脈』には、「経脈者,所以能决生死,処百病,調虚実,不可不通。」(経脈は生死を決し、百病を処し、虚実を調えて通じなければならない。)と書かれています。経絡理論は、長い年月をかけて古人による臨床の実践の末に総括されてきたものなのです。この理論は、臓腑、気血などの基礎理論とともに、中医学各科において、特に針灸の臨床弁証と治療の分野においてきわめて重要かつ根本的な役割を担っています。

経絡

book_02鍼灸のお話をすると、「経絡」、このニ文字に必ず触れることになります。西洋医学では神経や血管を論じるのに対して、中国医学では経絡について論じます。神経および経絡は、すべて人体をつかさどるシステムです。神経と血管は目に映り、触れることもできますが、それに対して、経絡は目に見えず、手に取ることもできません。数十年来、経絡研究の先達が現代の先進的技術を駆使して全容を解明しようと努力してきましたが、経絡の実態構造の全貌はいまだに解明されていません。皆さんは何気なく質問されます。「経絡は本当にあるのですか?経絡があるなら、何故、目に見えず、手で触れることもできないのですか?」
では、目に見えず、手に取ることができないものは絶対に存在しないのでしょうか? いいえ、そうではありません。自然界の中で、目に見えず、手に取ることができないものはいたるところにあります。たとえば「風」。木の枝は、風に吹かれて揺られていますが、あなたの目に映っているのは、「風」に吹かれて揺れている木の枝です。風ではありません。
木の枝が風に揺られていることを知っていますが、風の実体についてははっきりと知りません。それでも、「風」は存在していないのでしょうか?

経絡とは、人体内の気血の通り道とされる経脈と絡脈の総称です。中国医学、針灸学に特有の概念で、気血が流れる経路であり、内は臓腑に属し、外は全身に分布します。各部位の組織と器官をつないで一つの有機的な総体を構成しているのです。
「経」とは経脈を指し、体内を通じる経路であり、経絡システムの主幹です。
「絡」は、体内にはりめぐらされた経脈の分枝です。

経絡学説では、12経脈を主とし、全身内外に分布、気血を循環させて臓腑と皮肉筋骨を潤し、各部位の機能を正常に活動させて陰陽のバランスを維持します。
正気は経絡上をめぐりますが、邪気もまた経絡上を伝変します。どのような部位であれ、経絡が通じなければ、その部位は病気となります。

  • 正気とは、身体機能の正常な活動の総称です。すなわち、身体の免疫力および調節能力、環境に順応する能力、自然治癒力と健康を取り戻す能力のことを意味します。
  • 病邪とは、さまざまな病気を引き起こす原因およびその病理による損傷をさします。
  • 伝変とは、病邪あるいは病変の転移や変化です。

針灸 ― 中国伝統医学の宝庫の中で光り輝く一粒の明珠

数千年にわたる歴代医家は臨床の実践を通じて中医学理論体系を形成してきました。中医学の中でも、最も特色を備える部分が針灸であり、西洋医学とはまったく異なる方法で治療し、以下の特徴があります。
① 簡便
② 広範囲
③ 即効性
④ 安心安全

針灸治療は、簡便で効果も速く、副作用がない上に臨床各科に応用されてきたので治療範囲が広く、健康を保つためにも有効である安全な治療方法です。


針灸の臨床の応用範囲はすでに
① 経絡の診断
② 針麻酔
③ 針灸の保健
④ 針灸

の治療の4つの方面まで拡大しています。
現在、針灸の治療することができる病症は800に達するほど多種に上り、その内40%には著しい治療の効果があります。よく見かける病気、機能性疾病、慢性病ばかりだけでなく、ある難病、器質性疾病、急性病にも效果があります。対処可能な分野が非常に幅広いのも、針灸治療の大きな特長です。

最近ではアジアだけではなく、140あまりの国と地域において針灸治療が応用され、注目されています。世界において「針灸熱」が燃え上がり、新しい医学分野として着々と認知されつつあります。

針灸治療は総合病院

つらい痛みから慢性的な病気まで
ー さまざまな病症に効く中国伝統医学の技


針灸治療が、肩や首のこり、神経痛に効果を発揮することは広く知られていますが、実はそれだけではありません。中国では、針灸治療は300以上の病症に顕著な効果があると言われています。
消化器系の病症、呼吸器系、婦人科系そして糖尿病や高血圧などの病症にもきちんとした手技で根気強く治療を続けることで良い効果が現れます。
また、慢性病や原因不明の病症にも効果的です。
針灸の治療は臨床各科の広範囲に及んでいるので、針灸は総合病院のような役割をも果たせます。

中医学と西洋医学の結合

長きにわたる医学の進歩において、東洋と西洋では互いに異なる医学体系を築き上げてきました。それが中医学と西洋医学です。
中医学では、病証の辨証施治を重視し、陰陽、五行、経絡などの概念から人体各部の関係を解明、心身の調和を重視しています。
西洋医学では、実証を重視、自然科学を基礎として人体を科学的に観察します。中医学と西洋医学は、いわば人類の医学という一本の木から分かれた大きな幹であり、それぞれその幹から枝葉が茂ったものです。そして、医学研究の対象は人です。人は、宇宙で現存する多様な運動形態のうち最高の形態であり、人体は開放的かつ複雑なシステムなのです。中医学と西洋医学には、人の治療に対してそれぞれに長所があり、またそれぞれに短所があります(尺有所短,寸有所長)。

たとえば、西洋医学の薬には疾病を治療する効果がありますが、それと同時に副作用も避けられません。特に、一部の機能性疾病に対する心身の疾病、精神性疾患、うつ病、疲労症などの症状には、西洋医学では対処が難しいのです。
慢性病、難病、手術後および放射線療法や化学療法後の患者さんに対して、中国医薬と針灸が薬の副作用を減少し、治療するうえでめざましい効果をもたらします。

中医学と西洋医学、両者がそなえもつ長所と短所を互いに補完して優れた医療を実現し、治療する期間をできる限り短くします。病症を改善し、生活の質を向上させるとともに皆様の健康を守ります。これが中医学と西洋医学の結合の真の目的です。
これこそが『中国針灸院』の理想です。

針灸治療 - 免疫力と治癒力を引き出す医療

3つの主な針灸作用

1. 鎮痛作用(痛みをおさえる)
痛みは多くの患者さんに共通する症状であり、医者が直面する難題です。古来より、中国では『十病九痛』(十の病には九つの痛みがある)と言われており、痛みと疾病の密接な関係を表しています。中医学では、多くの痛みは気血の流れの滞ることにより生じ、経絡が通じないために病症や痛みが生じます(不通則痛)。経絡は気血が流れる通路であり、針を刺すと経絡の流れが良くして気血が通じるようになるので痛みがなくなります(通則不痛)。ゆえに、針灸治療には優れた鎮痛作用があります。

  • 気とは、全身を流れる生命活動に必要なエネルギーの総称です。
  • 血とは、生命を維持するために必要な栄養や燃料となります。血液だけではなく循環の意味にも用いられます。
  • 経絡とは、経脈と絡脈の総称です。気血などの通路であると同時に病邪の侵入する通路でもあります。
2.調整作用
針灸治療には、人体の各系統的な器官や組織を明らかに調える作用があり、特に、病理の状態で均衡を失って乱れている臓腑の機能を正常に回復するために用いられます。そのため、針灸は良性の調整作用があると言われています。これこそ、針灸が多くの病症を治療できる主な理由です。
3.免疫力を高める作用
針灸には「未病を治す」という考え方があります。未病とは、「まだ病気にはなっていないが、そのままでは病気になる」いわゆる半健康な状態です」。
針灸は、人が本来そなえもつ自然治愈力を生き生きと働くようにして、病気を未然に防ぎます。針灸は、各種病症を効果的に治療するだけではなく、体質を改善して病気を防ぐために免疫力と治癒力を引き出すことのできる予防医療なのです。